「日本とは何か」(書評集)
宿谷睦夫著

H「右脳と左脳―脳センサーで探る意識下の世界―」
角田忠信著


H「右脳と左脳―脳センサーで探る意識下の世界―」
 
 表記の著者は、一九七〇年代に著書「日本人の脳」(大修館書店刊)を書かれて、国内でこの著書がベストセラーになったばかりでなく、海外でも高い評価を受けられた東京医科歯科大学名誉教授・角田忠信博士である。
 ロジャー・スペリという脳生理学者は、角田博士と同じ分野の研究を行って、右脳と左脳の違いを解明しノーベル賞を受賞された方である。しかし、スペリと角田博士との研究方法は根本的に違いがあった。それは、スペリが脳梁(右脳と左脳を結んでいる無数の梁)を切断した疾患のある人間の脳を検査して、右脳と左脳の違いを発見したのに対して、角田博士は正常な人間の脳を対象として、右脳と左脳の違いを発見したものである。
スペリの研究は、フロイドの研究方法と似ている。フロイドの研究は、正常ではない人間を対象にして、「衝動的行為」の研究を行い、「人間の衝動的行為」を悪と見たのである。そこで、多くの人が「衝動的行為」を戒めるようになった。しかし、最近、アブラハム・マズロー(1908年〜1970年 A.H.Maslow アメリカの心理学者)の研究が注目されるようになり、「人間の衝動的行為は必ずしも悪い方向にばかり向うものではない」という説が認められるようになってきた。マズローはフロイドと同じ研究を正常な人間を対象にして行ったのであった。
角田博士の研究もマズローが取った研究方法と似ている。
博士が脳について研究されるようになった動機は、脳の失陥による病気の治療の為に始めたものであった。人の異常な脳を治療するにしても、まず正常な脳を正しく把握しない限り、本当の治療は出来ないという観点に立脚されたというのだ。しかし、その研究は実際には永い年月を要することが解ってきたという。そこで、異常な脳の治療に応用出来ないまま、自分の研究が終わってしまわれることを非常に心配されておられた。
著書「日本人の脳」で、角田理論が世界的な評価を勝ち得た背景には、この理論が極めて普遍性を持っていたということである。
ロジャー・スペリの発見以来、右脳は非言語情報、左脳は言語情報を処理すると、一般的に認知されるようになってきた。しかし、角田博士は正常な人の脳を検査していく内に、もう少し微細な違いに気付かれるようになられたという。つまり、日本語を六才から九才までに学習した者は、例えそれが日本人以外のどの人種の人であろうとも、虫の音や小川のせせらぎのような非言語情報でも左脳で処理していることを発見されたのである。
この発見は専門家の間だけでなく、一般にも知られることとなった。この理論が記述された著書「日本人の脳」は一九七〇年代で三十刷を超えるベストセラーとなった。学術書としては、後にも先にも無いとのことである。
評価は日本のみに止まらず、ユネスコの主催する国際的学術会議で基調講演をされるようになった。普遍性という一九七〇年代の世界の学問の潮流にヒットしたのである。「日本人の脳」というタイトルから、その脳の特質が、日本人という種族の特質と捉えがちであるが、上述のように、「日本語を六才から九才までに学習した者は、例えそれが、日本人以外のどの人種の人であろうとも、虫の音や小川のせせらぎのような非言語情報でも左脳で処理している」と定義したことは、世界の一番の紛争の根源の一つである異なる人種同士の衝突の解決策になる。しかし、未だに角田博士のこの理論を日本人という種族の特質並びに優位性に用いる人もいる。
ここで起こってくる一般的な疑問は、なぜ六才から九才までに学習した者が虫の音や小川のせせらぎといった非言語情報を左脳で処理するのかという問題である。
日本語に類似していると一般的に思われてきた韓国語や中国語でも実験してみると、これは英語を始めとするインド・ヨーロッパ語族と同じ反応であったという。それでは日本語だけが世界の他の言語と違っているのかと色々実験された結果、ポリネシア語が日本語とまったく同じ反応を示したという。日本語とポリネシア語を比較してみると、その特色は、母音だけで意味を持った言葉が多く存在するということが分かってきたという。
 


博士の研究は、これだけに止まってはいなかった。一般には、人間の脳といえば、右脳と左脳だけが注目されてしまっているが、実は耳から入って来た情報は全て、一旦は脳幹を通過して、その判断によって右脳と左脳に振り分けられているという発見をされていたのである。これを博士は「脳幹のスイッチ機能」と呼び、人間の脳がこの世で最も精度の高いコンピュータであると常々語られて来た。今、現代医学で脳をコンピュータで測定出来るようになると、医学界ではその研究に力が入れられているというが、博士はそれを否定される。人間の脳は、現代のコンピュータでも比べ物にならないくらい精度の高いコンピュータが内臓されているというのだ。右脳とか左脳は末端の情報処理機能であり、その中心部を司る脳幹は外から入って来る情報を仕分けるのみならず、人間の潜在意識と関連を持ち、地球の地殻の波動を正確に捉えているというのである。一般的に、鯰(なまず)や野鳥、鼠などが地震の起こる前に、その現象を前以て察知すると言われてきたが、博士によれば、人間が一番精度の高いセンサーを内臓していると言われる。地震学会にも所属され、地震が起こる度に地震の予兆現象のデータを寄せられただけでなく、ご自身も地震と脳幹の特殊作用との関係を論文にまとめられてきた。今回の著書は、既刊のものであるが、その後の研究成果を追加され、「地震と脳幹の特殊作用との関係」にも言及されている。
脳幹が情報を右脳と左脳に振り分ける働きをしているのであるが、その「脳幹のスイッチ機能」がある時、狂いだしてしまうという現象を経験されたという。その現象を博士は「発振現象」と命名された。
博士はこの「発振現象」を発見されてから、関心を持たれる分野が広がったという。この「発振現象」を使った研究で発見された成果は数個を超えるものがあるが、実験例証を積み重ねて学会に発表出来る日を心待ちにされている。「発振現象」は、その一つに地震が起こる前等に現れるのであるが、ある時、この「発振現象」が起こっても、自らの力で「発振現象」に影響されない方法を発見されたという。それは、座禅やヨガで行う呼吸法を用いて、息を十秒間静かに吐きながら検査したところ、「発振現象」に影響されずに、「脳幹のスイッチ機能」が正常に働いたという。
博士の研究の一端をご紹介しよう。著書では、脳幹と年齢との関係に重大な関係があることを発見されている。つまり、四十系、六十系というという言葉で表される現象であるが、四十才と六十才と、四十の倍数・八十才の時に、「脳幹のスイッチ機能」が逆転するという現象である。そして、この他に自分の年齢と時にも逆転するという現象である。
四十系、六十系とは百ヘルツ以下の低音の純音は四十ヘルツと六十ヘルツと、四十の倍数・八十ヘルツの時に、右耳から左耳優位の現象を生じる他、四十個と六十個と、四十の倍数・八十個の音の組合せに於いても逆転するという現象である。詳細は本著に譲りたい。
(角田忠信著・小学館刊・七八〇円)

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